京都地方裁判所 昭和41年(レ)51号 判決 1966年12月21日
控訴人
(四八号事件控訴人、
五一号事件被控訴人)
佐藤美与士
右訴訟代理人
鈴木国久
被控訴人
(四八号事件被控訴人
五一号事件控訴人)
岩井寿左美
右訴訟代理人
奥村文輔
同
金井塚修
主文
原判決を取消す。
本件を宇治簡易裁判所に差戻す。
事実
控訴人訴訟代理人は、「原判決を取消す。宇治簡易裁判所昭和三六年(ト)第二号不動産仮処分命令申請事件につき昭和三六年四月二五日同裁判所のなしたる仮処分決定はこれを認可する。被控訴人の控訴を棄却する。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、
被控訴人訴訟代理人は、「控訴人の控訴を棄却する。原判決中本件を京都地方裁判所に移送するとある部分を取消す。控訴人の仮処分申請はこれを却下する。訴訟費用は第一、二審とも控訴人の負担とする。」との判決を求めた。
当事者双方の主張、証拠の提出、援用認否は、原判決事実記載と同一であるから、ここにこれを引用する。
理由
記録によれば、つぎの事実を認めうる。
控訴人は、被控訴人より買受けた別紙物件目録記載の不動産について、昭和三六年四月二四日、原審宇治簡易裁判所に仮処分申請をなし(同庁昭和三六年(ト)第二号不動産仮処分事件)、同庁は、昭和三六年四月二五日、「被申請人(被控訴人)は、別紙物件目録記載の不動産につき、売買、譲渡、質権、抵当権、賃借権の設定、その他一切の処分をしてはならない。」との仮処分決定(本件仮処分)をした。
控訴人は、昭和三六年五月一二日、本件仮処分の本案訴訟を、宇治簡易裁判所に提起し(同庁昭和三六年(ハ)第一二号土地所有権移転登記請求事件)、同庁は、同三七年四月二〇日、同事件を、別件仮処分(同庁昭和三六年(ト)第三号不動産仮処分事件)の本案訴訟である同庁昭和三六年(ハ)第一三号土地所有権移転登記請求事件と併合の上、昭和三七年四月二一日、民事訴訟法第三一条の二に則り、京都地方裁判所に移送したが(同庁昭和三七年(ワ)第四六六号土地所有権移転登記請求事件)、控訴人は、昭和四〇年三月二二日、右訴を取下げ(被控訴人同意)、昭和四〇年三月三〇日、再度、本件仮処分および前記別件仮処分の本案訴訟を京都地方裁判所に提起し(同庁昭和四〇年(ワ)第二六一号土地所有権移転登記請求事件)。右訴訟は同庁に現に係属中である。
宇治簡易裁判所は、昭和四一年八月三日、本件仮処分に対する仮処分異議事件(同庁昭和四〇年(サ)第一五号)につき、控訴人が本件仮処分の本案訴訟を京都地方裁判所に提起し(同庁昭和四〇年(ワ)第二六一号土地所有権移転登記請求事件)、右訴訟が同庁に現に係属中であるので、本件仮処分は、本案の管轄裁判所に非ざる裁判所の決定となることを理由として、「本件仮処分決定はこれを取消す。本件を京都地方裁判所に移送する。」との判決をした。
ところで、仮処分命令申請事件の管轄は、本案の管轄裁判所の専属管轄であるから(民事訴訟法第七五七条、第五六三条)、本案訴訟提起前になされた仮処分申請にもとづき裁判所が発した仮処分決定に対し、異議の申立がなされた場合、右裁判所が、仮処分申請当時、本案訴訟につき、管轄を有せず、かつ、その後、仮処分申請事件に対する専属管轄の欠缺の治癒もないとき、右裁判所は、判決をもつて、仮処分決定を取消し、仮処分申請事件を本案の管轄裁判所に移送すべきである。
本案訴訟が未だ係属しない場合における仮処分申請事件の事物管轄は、訴訟物の価額に従い地方裁判所または簡易裁判所のいずれに属するかを定める場合にかぎり、専属ではないとする見解(大審院昭和一五年八月二八日判決、民集一九巻一五〇九頁)があるが、民事訴訟法第七五七条、第五六三条の適用を右の見解のように制限すべき理由がないから、右の見解は採用しえない。
そこで、宇治簡易裁判所が、本件仮処分申請当時、本案訴訟につき、管轄を有していたか否かについて判断する。
記録添附の宇治市長作成の証明書によれば、本件仮処分申請当時、本件不動産の価額が金一〇万円を超えない事実を認めうるから、宇治簡易裁判所は、本件仮処分申請当時、本案訴訟につき、管轄を有していたものと認めうる。
仮りに、本件仮処分申請当時、本案訴訟が簡易裁判所の事物管轄に属しなかつたとしても、前記のとおり、控訴人は、その後、本案訴訟を宇治簡易裁判所に提起したから、宇治簡易裁判所の本件仮処分申請事件に対する管轄の欠缺は治癒された。本案訴訟の提起により、いつたん、仮処分申請事件に対する管轄の欠缺が治癒された以上、その後、本案訴訟が、管轄違により移送され、または取下されても、仮処分申請事件に対する管轄に影響を及ぼさないと解するのが相当である(大審院昭和五年一一月八日判決、民集九巻一〇六五頁参照)。
本案訴訟提起前に仮処分申請を受けた裁判所が、申請当時、本案訴訟につき管轄を有するか、または、その後、仮処分申請事件に対する管轄の欠缺が治癒されたとき、その後、本案訴訟が他の裁判所に係属しても、仮処分申請事件に対する管轄に影響を及ぼさない(民事訴訟法第二九条)。
よつて、原判決は、不当であるから、これを取消し、本件を宇治簡易裁判所に差戻すべきであり、主文のとおり判決する。(小西勝 石田恒良 辰巳和男)